妻、松たか子×夫、浅野忠信。

ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~?
『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』(2009)
僕にとって今月本命の一本であり、
今年公開される邦画の中でいちばん観たかった作品を公開初日に観てきた。
著名な作家、太宰治(1909-1948)生誕100周年を記念して贈る、
彼の小説の映画化。
正しく芸術の秋に観るに相応しい文芸作でした。
タイトルに使用されている『ヴィヨン』とは【高い学識を持ちながら悪事に加わり、
逃亡・入獄・放浪の生活を送ったフランスの中世末期の近代詩の先駆者
フランソワ・ヴィヨンのこと。無頼で放蕩な人の例えとして使われている。】とのこと。
この作品における主人公、
小説家の大谷(演じるのは浅野忠信)のことを指しています。
そして大谷こそ太宰治その人なのだと連想します。
久しぶりに細部に渡り、
とても丁寧に作られた【日本映画】を観られた気分になりました。
かつての日本映画というものがこういうものだったんだと思い出させて貰えたような。
ふと、名匠であった市川崑監督や五社英雄監督が描き出す世界観を
彷彿させるような匂いさえ感じました。
それでいて、伝統の東宝映画らしい風格さえ漂っている。
最近の邦画の出来と比べものにならないくらいの完成度の高さを僕は感じました。
自分自身が昭和の戦前戦後、
間もない頃の日本の雰囲気が好きだったことを思い出せたり。
西洋文化=資本主義の米国が完全に入りきる前の日本。
今回僕にとって初挑戦となった太宰治の世界観は、
とても鬱々としているものがあった。
僕は恥ずかしながら彼の小説を一度も読んだことがなく、
代表作の『走れメロス』と『人間失格』のタイトルを知っているくらいの知識だ。
これまでの彼に対する勝手なイメージとしても、悶々としていて暗く、
妻子がありながら玉川上水で愛人と入水自殺を諮るような人だという
スキャンダラスかつマイナス的なものだった。
この『ヴィヨンの妻』の大谷も常に【死】について考えている人物だった。
僕は死に対することを日常の中で考えたことがないし、
死に対して美徳的なものを感じる訳でもないので、
この辺りの大谷の心境を理解することはできなかった。
僕にとって、この作品の最大の魅力は豪華俳優陣の共演だった。
好きな俳優ばかりだったので、もうそれだけでどれほど嬉しかったことか!
もうひとりの主人公である大谷の妻、佐知を演じるのは松たか子。
何においても、この松たか子と浅野忠信の存在なしでは
『ヴィヨンの妻』を語ることはできないということ。
それくらい二人の演技は素晴らしく、息もぴったりだった。
何よりも演じる人物に対するブレがなく、
昭和の時代と和の世界が違和感なく似合っていたことを記しておきたい。
松さんの演技は舞台で演じる時の近さまで持っていき、佐知に成りきっていた。
佐知という役柄に関しては良妻賢母と言うよりか、
彼女の潜在意識の中に男を惹きつける魔物のようなものが存在することを感じた。
浅野忠信は本当に昭和の時代に存在しそうな、
やさぐれ感ある男の雰囲気を見事に体現していた。
その淡々とした特徴のある語り口調を始めとして印象に残る。
大谷という役柄に関しては、
女々しくて意気地なしで口先だけのどうしようもない男だと感じたけど。
加えて、当時の作家というものが矛盾のある理論を持つナルシストだと強く感じた。
大谷の愛人、秋子を演じるのは広末涼子。
普段の彼女の演技に関しては若干、不安を感じる時がある。
この役を演じるにあたり根岸吉太郎監督から発声の指導を受けたようで。
今回は出演シーンも少なく助演の役回りだったので、
それほど心配することなく落ち着いて観ることができた。
逆にこういう嫌味に思える愛人役も演じられるようになったんだと思えたほど。
ちなみに、松たか子との共演は
TVドラマ『ロング・バケーション』(1996)以来とのこと。
佐知に想いを寄せる青年、岡田役の妻夫木聡。
こういう純粋に見える好青年の役は本当にぴったりだ。
彼の持ち味を十分に活かしていたと思う。
ただ、松さんと浅野忠信を前にすると、良くも悪くもまだまだ青い気がした。
それでもブッキー×松さんと浅野忠信との共演シーンは
滅多にお目にかかれない光景なので、それだけで興奮していたけどね。
特に岡田が不意に佐知へキスする場面と、
酔った大谷が後ろから岡田に覆い被さる場面は妙にドキドキ。
ちなみにブッキーの出演シーンは中盤辺りからで、
岡田自らが自分の出番が終わることを劇中で告げてくれるので役立ちました。
佐知のかつての想い人である弁護士、辻役の堤真一。
出番は少ないながらも、さすがの落ち着いた演技を披露していた。
この5人を見事に演出したのは根岸吉太郎監督。
彼の理想によるキャスティングが実現したようで、
演技者もそれに応えるかのような演技を魅せてくれました。
根岸監督の妥協を許さない古きよき懐かしい日本の風景を描く手腕は
素晴らしかったし、安定した演出も不安なく観ることができたので良かったです。
どの場面を切り取っても奥ゆかしく、凛々しさと美しさを感じます。
実はタイトルで使用されている『桜桃』が
【さくらんぼ】のことだと思い出したのは正にラストシーンでした。
そのラストシーンで佐知が大谷に告げる言葉が
人生を達観したようなものを感じ、強く印象に残りました。
この夫婦そのものを表しているようにも感じたな。
『人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ』
満足度:★★★★★

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