ミュンヘン(アメリカ)

【わたしは正しいのか?
1972年のオリンピックで11人のアスリートが殺された
深い哀しみの中、政府がくだした決断は<報復>――】


正に至福の時間だった。
上映時間164分はアッという間。
全世界の監督でいちばん愛するスティーヴン・スピルバーグの真骨頂!
その卓越した演出ぶりには、もはや脱帽と尊敬の念しかない。
超一級の社会派ドラマに仕立てながらも、
ハラハラドキドキする娯楽性のあるサスペンス・スリラーとしても仕上げている。
生涯のNo.1である『シンドラーのリスト』(1993年)↓とは違い、
今作では中立的な立場で描いていた。
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彼にしては珍しく性愛シーンもあり、かなりの成長ぶりが見られる。
本当に文句のつけどころがなく、パーフェクトに近い出来。
スピルバーグ・チームの集大成!
音楽:ジョン・ウィリアムズ、編集:マイケル・カーン、
撮影:ヤヌス・カミンスキーら常連スタッフによる素晴らしい仕事ぶりには極上のものを感じる。
特にカミンスキーの撮影には酔いしれる。
秀作『プライベート・ライアン』(1998年)↓に続くドキュメンタリー調のリアルで生々しい映像。
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1970年代の映画に多用されたズームフォーカスによる撮影方法。
独特の粗い乾いた色合いも僕好みでタマらない。

奇しくも僕がこの世に生を受けた1972年に起きた実在の事件を題材にしている。
ドイツのミュンヘン・オリンピックで起きた
パレスチナ人ゲリラ『ブラック・セプテンバー(黒い九月)』による
イスラエル人選手11人(コーチ、大会役員を含む)襲撃殺害・軟禁事件。
オリンピック主催国ドイツによる杜撰な対応と世論の無関心さに激昂した
イスラエル政府が決めたパレスチナへの報復策として選ばれた5人のスペシャリストたち…。
そのメッセージ性の強いダイナミックな脚本(実際は脚色)を書いたのが、
舞台・TV映画『エンジェルス・イン・アメリカ』で素晴らしい脚本を書いたトニー・クシュナーと、
『フォレスト・ガンプ/一期一会』でアカデミー賞脚色賞を受賞したエリック・ロス。

世界各国からの参加による俳優陣の贅沢なこと!
オーストラリア、イギリス、アイルランド、フランス、ドイツetc.
思い返せば、アメリカ俳優が出演していなかったような。
イスラエル秘密情報機関【モサド】の一員であり、
今回のチーム・リーダーに指名されたアヴナー役のオーストラリア出身エリック・バナ。
祖国に対する忠誠心と自分の中にある人間としての誇りとの間で
葛藤する様を見事に演じきっていた彼。
過去最高のパフォーマンス!
南アフリカ出身の車輌のスペシャリストであるスティーヴ役のイギリス出身ダニエル・クレイグ。
キャラクター中、もっともオシャレでニヒルな役柄。ちょっと印象が薄かった気もする。
物静かで几帳面な掃除人(=後処理)のスペシャリストである
北アイルランド出身カール役のキアラン・ハインズ。
おもちゃ職人であるベルギー人の爆弾スペシャリストである
ロバート役のフランス出身マチュー・カソヴィッツ。
『アメリ』↓のニノ役でノックアウトされた大好きな男優。
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本作でも子供に微笑むフェイスアップのシーンがあったけど、
その愛くるしい表情が(特に目!)本当にカッコ可愛くて。
スピルバーグ監督以外ではもう俳優業をしないと公言しているので(製作業に専念するとか)、
この作品が最後だと思い心と目に焼き付けた。
ダニエルとマチューがテンプテーションズの名曲『マイ・ガール』で一緒に踊るシーンは、
なんとも微笑ましい束の間の静寂なひと時。
文書偽造スペシャリストのハンス役にドイツ出身ハンス・ジシュラー。
モサドの窓口担当エブライムにオーストラリア出身ジェフリー・ラッシュ。
出番は少ないながらも、流石の存在感。
ほかにもアイェレット・ゾラー、ギラ・アルマゴール、ミシェル・ロンズデール(『ジャッカルの日』)、
マチュー・アマルリック(『そして僕は恋する』)、
モーリッツ・ブライブトロイ(『ラン・ローラ・ラン』、『es [エス]』)、
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ(『ふたりの5つの分かれ路』)、メーレト・ベッカー、
イヴァン・アタル(『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』)、マリー・ジョゼ=クローズ、
アミ・ワインバーグ、リン・コーエンetc.
誰もが皆、真剣に取り組み素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる。
ハリウッドの大スターが出ている訳ではないので、本当にリアリズムあるキャスティングだった。

【国】がないということに対する痛切な思い。
島国である日本人には到底理解し難い思い。
だけど、【平和ボケ】という一言では片付けられないことが当時起こっていたのは事実であり、
それは信じ難く許されない行為だ。
当時のイスラエル人がどういう思いでミュンヘン・オリンピックに参加したのかを考えると、
この事件に心が痛む。
ドイツでミュンヘン前に行なわれたオリンピックはアドルフ・ヒトラー政権下のベルリンにて。
そこで行なわれていたのは、ユダヤ人に対する恐るべき迫害(=ホロコースト)。
きっとイスラエルの人々は【赦す】気持ちでミュンヘン・オリンピックに参加したであろうに。
だからその神聖な地でパレスチナ人が彼らを殺すということは、
本当に強烈な出来事だったのだと言える。

【祖国】を思い動いたにも関わらず、最後にはその【祖国】から疎まれる存在となるアヴナー。
誰を信用したらいいのか、疑心暗鬼になる生活。
やすやすとベッドで安眠さえも出来なくなる程に追いつめられる心理状態。
劇中に数多く登場する料理のシーンに、【家族】を見出し、
またイエス・キリストの【最後の晩餐】を感じさせるものがあった。

ラストシーンに映し出されるアメリカN.Y.の世界貿易センタービル。
そこにスピルバーグ監督が最も伝えたいメッセージがあるように思えた。
爪は切っても、また生える。
終盤にこのようなセリフがあり、とても印象に残り深く考えさせられる。

今年の僕の年間ベストテン入りは間違いない気がする。
それほど強く感銘し震えたエモーショナルな作品。
僕はこの作品に、もうじき開催されるアカデミー賞の作品賞をあげたい。
これで僕はますますドイツとユダヤ人に惹かれていくだろう…。

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2005年/164分
梅田ピカデリー/藤原ちゃん
金券ショップ1100円→1650円

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4 Comments

雪 says...""
お久しぶり。ようやく自由の身になりました(笑)。
お勧めのミュンヘン、私は、主演のエリック・バナが、キング・アーサーではそれ程、印象に残らなかったので、どうしようかなと思ってたところもあったんだよ。
彼は映画好きとはいえ、好みのジャンルが極端に限られてるので、絶対こういうのには付き合ってくれないし。
けど、作品自体が「パーフェクトに近い出来」と、言うくらいなんて、余程のことやもんね。観に行きたい気分になってきたわ。
なんとか時間を作って観に行けたらいいな。
2006.02.21 22:37 | URL | #3v9IlUEY [edit]
Elijah says..."雪さんへ。"
祝!自由の身(笑)。
エリック・バナは『キング・アーサー』には出てないから(クライブ・オーウェンです)、『トロイ』の間違いかな?
彼の演技は素晴らしかったよ!
ぜひ彼氏さんと観てほしいなぁ。
改めて、どんなジャンルでも一緒に観てくれる友人に恵まれてるコトを痛感しました。
雪さんとも一緒に行かねば!だね。
2006.02.22 22:13 | URL | #d/k.Dt.. [edit]
雪 says...""
あーそうだv-356『トロイ』だよ…(恥)
なにをどう勘違いしてたんだろ…私。
そうそう、映画、ぜひ行こうね。誘ってね。

>どんなジャンルでも一緒に観てくれる友人に恵まれてる
だから最近は、Elijahが誰を誘って何を観てるかが、結構楽しみだったりする(笑)
2006.02.22 23:40 | URL | #3v9IlUEY [edit]
Elijah says..."雪さんへPart2。"
やっぱり『トロイ』だったんだね(笑)。
両作とも史劇物だし、混同しても仕方ないよ。
雪さんと一緒に観るとするならば、やっぱりヨーロッパ物かなぁ…。
2006.02.24 18:02 | URL | #d/k.Dt.. [edit]

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