春の雪(日本)

【愛しては、ならない。】

瀬を早み 岩にせかるる 滝川の……
われても末に あはむとぞ思ふ……
私の好きな歌…… この歌の意味わかる?
川の流れが早くて、岩に止められた流れが、
一度はふたつにわかれても、
また、いつかひとつになるように、
私たちも、何かに邪魔をされても、
将来は、きっと一緒になろう……そういう意味なの


三島由紀夫原作の『豊饒の海』シリーズ四部作の第1巻の映画化。
僕は、どの作品も読んだ事がない。
三島から連想されることは、究極のナルシズム。
予想通り、この作品の主人公である松枝清顕を始めとしたナルシズムの極致が描かれていた。

かつての東宝作品を彷彿とさせる文芸作。
正直、見ていて鳥肌が立ちそうだった。
そこには、僕が愛してやまない美しい世界観があったから。

大正初期の東京。大正デモクラシー。
近代の中で、僕がいちばん愛する時代だ。
僅か15年しかない中で、東洋と西洋文化の見事なコラボレーション。
公爵、伯爵の華族制度。
今よりもずっと丁寧な日本語を大切に使っていた時代。
現代のように言葉を省略する事なんて有り得なかっただろう。
芸術や限りなく贅を尽くされた物を大いに受け入れ愛した時代。

だけど、その美しさの裏には大きな犠牲があった。
家名を守るためだけに生きる人間。現代以上に建前で生きる時代。
女性の自己主張は御法度。慎ましく生きることしかできなかった時代。

この物語において、すべての元凶は清顕の子供じみた行いだった。
それさえなければ、すべてはうまくいっていただろうに。
ただ、僕は清顕の取る行動が手に取るように理解できた。
僕もきっと、ああいう振る舞いをするだろうから。
どうしようもないところまでいっても、それでもまだ行なおうとする性…。
この作品でも、男は脆く、女性は強かった。

後悔はいたしません。この世ではもうあの人とは、二度と逢いません。
お別れも存分にしてまいりました。


行定勲監督は、重要なキーワードとして輪廻転生と清顕が書き綴った夢日記を残しながらも、
原作を大胆に削ぎ落とし解釈して描ききったようだ。
ここに原作をこよなく愛する人からの賛否両論の声が上がるだろう。

撮影が、『夏至』、『花様年華(かようねんか)』、『珈琲時光』で
職人技としか思えない見事な映像を披露してくれた台湾の名匠・李屏賓。
今作でも彼の映像世界は、この世のものとは思えない程に繊細で時に力強く、実に美しかった。
僕の中ではアカデミー賞級の映像美だ。

松枝清顕役の妻夫木聡。
初めて演じるであろう自己中心的な役。
19才の清顕を、無理なく演じていた。
その安定した演技ぶりが久々の好演に思えて、なんだかとても嬉しかった。
それにしても、キスシーンは本当に巧い。今回も彼の口元ばかり見ていました(笑)。
『ウォーターボーイズ』をきっかけに日本映画を評価し、映画館で観るようになった経緯がある。
その主演俳優だった彼の【映画俳優】としての成長ぶりをこれからも見守っていきたい。
綾倉聡子役の竹内結子。
正直、映画館で、『いま、会いにゆきます』を観るまで彼女のことは好きではなかった。
今作では、清楚で可憐でそれでいて芯のある女性を嫌味なく見事に演じていた。
この役を演じきれるのは、今の日本の若手女優の中では彼女だけだろう。
実生活での妊娠は、この役を演じるにあたってとても考えさせられるものがあっただろうに。
清顕の親友・本多繁邦役の高岡蒼佑。
彼の役柄と演技ぶりが、この作品の中で一番印象に残った。
清顕に対する友への思いが、ある種のホモセクシャル的でとても興味深い。
その熱い友情に思わず、涙しそうになる。
『パッチギ!』ではそんなに印象は残らなかったけれど、今作での彼は本当に強く印象が残る。
ほかにも、三島自身とリアルタイムで生きた世代の
岸田今日子、大楠道代、若尾文子らベテラン勢の名演技ぶりが光る。

あえて欠点を挙げるとすれば、
唯一のミスキャストとなる聡子の婚約者・洞院宮治典王殿下役の及川光博と、
それまでの感情の余韻をぶち壊したと言える
エンディングに流れる宇多田ヒカルの『Be My Last』。
話題を呼ぶ為に著名なシンガーに曲を依頼するのが、日本の大手配給会社の情けないところ。
いい加減に中身だけで勝負してほしい。 

この作品は、今の日本人にはない世界観を描いていた。
もしかしたら、今の若者には理解できないものがあるかもしれない。
涙が、とめどなく流れる作品でもない。
だけど、観終わった後、しみじみと心に深くなにかが残っている。
150分という長丁場の上映時間が、僕には束の間の夢のひと時だった。

いつか、本多が主役となる物語の続き(まずは第2巻『奔馬』)を見られる日がくるのだろうか…。

雪が溶けて春が来たら、
僕たちの距離は思っていたよりももっと近いことに気がついた。
あの時、僕たちに降った雪は、今、桜の花びらに変わる。
次の冬が来る前に、今度は降り注ぐ桜の祝福を受けよう。
僕たちはきっと、幸福を手に入れる。


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三番街シネマ/奈良ちゃん

前売り券1300円→1500円

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ジーナ・K(日本)

【憎んでも、傷ついても、愛したいから私は歌う。】

本来なら好んでは絶対に見ない作品。
観に行った動機は、ARATAが出演していたから。

福岡県・中洲を舞台にした、歓楽街で懸命に生きる人々の人間模様。
核となるのは、ストリッパーの母をもつシンガーの女性。

この作品は、正にオンナの映画だった。
母と娘の会話が生々しくて、痛い。
オンナにしか解らないものが、そこにはあった。
唯一、理解できた事は、オンナは精神的に強いという事。
そして、オトコは女々しく弱い生き物なんだと。

娘・かやの=ジーナ・Kを突き放すような物の言い方をする母・カトリーヌ。
強く生きてほしいからこそ、あえてそうしているんだろうなと最後に思えた。
偉大なるmother感あり。

これが監督デビュー作となる藤江儀全(兼脚本)の演出は、
どこか自主制作映画的なノリで、僕好みではなかった。
物語性も日本版キム・ギドク監督作品って感じで、正直言って苦手だ。

ジーナ役のSHUUBI。
キツい表情が松田美由紀に見えて仕方がない。
本業がシンガー・ソングライターらしいけど、はっきり言って演技力は…ないね。
カトリーヌ役の石田えり。
彼女の存在感は圧倒的で、この作品の質を上げるために大いに貢献していた。
どこか吹っ切れたようなヌードも辞さない脱ぎっぷりはお見事で、
とても1960年生まれには見えないボリューム感のある大胆なボディだった。
それでも、イヤらしさを微塵にも感じさせない。
ジーナに惹かれるトランペット吹きの青年役のARATA。
ひょうひょうとした【素】の演技ぶりは本来の彼らしい持ち味で好感がもてたけど、
駄作『青い車』に続き、今回も作品選択を間違えたようで…(苦笑)。
この作品で、片岡礼子と再会できたのは嬉しかった。
『ハッシュ!』主演後、実生活で大病を患ったと聞いていたので、
元気な姿を見れてなんだか安心した。
ここでも、肝っ玉のある訳ありな長距離トラックの運転手をさらりと好演していた。

多分、二度と見ない作品になるだろうな。
それはきっと、今の僕が見たくない世界を描いているからだと思う。
もし僕がカトリーヌに会ったら、キツい一言を浴びせられるだろうから(苦笑)。

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シネ・ヌーヴォ/奈良ちゃん

前売り券1400円→750円

ドミノ(アメリカ=フランス)

【私だけのスリリングな生きざま】

観に行くきっかけとなったのは、生涯最愛の海外ドラマ『ビバリーヒルズ高校/青春白書』の
主要キャストだったブライアン・オースティン・グリーン(デヴィッド・シルバー役)と
イアン・ジーリング(スティーブ・サンダース役)が本人役で出演していたから↓
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思ってた以上に出番が多くて驚いたけど、ブライアンの老けぶりには絶句(特に前頭部…)。

さて、本題。
ほぼ日米同時公開。共に興行成績は振るわず。
どこの批評を読んでも良い評価ではなかったので、全く期待せずに見たせいもあってか、
僕にとっては予想以上の出来でかなり楽しめた。
『ワンダーランド』もそうだけど、こういう実録犯罪物は好きなんだよね。

実在した俳優ローレンス・ハーヴェイの娘ドミノ・ハーヴェイの半生を描いた物語。
バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)としての生き様を描いている。
ただ、映画の冒頭でもクレジットが入るように、かなり脚色して描いてると思うので、
あくまでドミノをインスパイアした物語と思って見るのが賢明だと思う。

MTV世代の先駆者的存在であるトニー・スコット監督。
彼独特の目まぐるしい映像世界観は健在で、スタイリッシュでクールな映像美に酔いしれる。
だけど相変わらずの常に焦点が合わないカメラワークなので、正直、目が疲れる。

原案・脚本はリチャード・ケリー。
『ドニー・ダーコ』の監督・脚本の人なんで、
一癖もあるストーリー展開に期待せずにはいられなかった。
時間軸を交錯させた構成は面白い。
が、ドミノに対するキャラクターの掘り下げ方が浅いので、
彼女がなぜそれ程までにバウンティ・ハンターに魅了され続けたのかが、今ひとつ分からなかった。
この点が、不評の原因ではないだろうか。

キャストは見事な充実ぶり。
キーラ・ナイトレイ、ミッキー・ローク、エドガー・ラミレス、デルロイ・リンドー、ミーナ・スヴァーリ、
ルーシー・リュー、クリストファー・ウォーケン、ジャクリーン・ビセット、ダブニー・コールマン、
メイシー・グレイ、モニークと通好みの出演陣。

キーラが上半身脱いでて驚いたけど(ボディダブルを使うと聞いてたので)、
『穴』ですでに脱いでたコトを思い出した。
ショートカットでボーイッシュな役柄だったせいか、
かつてのウィノナ・ライダーを思い出さずにはいられない。
ベネズエラ生まれの新星エドガー。
ラテンのフェロモンたっぷりなワイルドぶり。それでいて繊細だったりする。
これがまた、彼の目が先述の『ビバリーヒルズ高校/青春白書』の
ジェイソン・プリーストリー(ブランドン・ウォルシュ役)に似てるんだな。
思いがけないサプライズ的なノリで、彼に対する僕の目は常にハートマークでした(笑)。
今後、要注目の男優さんだ。

役者みんなそれぞれに好演していた。
だから最後にキャストをひとりずつファーストネームで紹介する趣向は、
スタッフからの愛情を感じてかなり好きな終わり方だった。
そして、最後の最後に今は亡き本物のドミノを登場させ物語を締めくくる。
うーん、憎い演出だね。

終始スリリングな展開に釘付けされ、さりげなく社会性も描いてあって。
でも、ここがかなりの好ポイントで↑
ホントにクールな犯罪ムービーでした。

改めて、映画に対する人の感想なんて当てにならない。
『十人十色』なんだなと思った。
だから、ここに記されている僕の感想も、あくまで参考程度にして下さい(笑)。

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梅田ブルク7/単独

前売り券1300円→1350円

ARAHAN アラハン(韓国)

【“掌風(気)”を制したとき、“アラハン”への扉が開かれる】

屈辱の日本語吹替版で観る。大阪の都心はなぜか字幕スーパ-版での公開がない。
おまけに、吹替版の主役が劇団ひとりだなんて…。トホホだ。
本来、この手のジャンルはほとんどと言っていいほど見ない。
香港映画の『少林サッカー』に中国映画の『カンフーハッスル』、
そして同じ韓国映画である『火山高』。どれもギャーギャーとうるさいだけ。
だけど、韓国若手の中で要注目の男優リュ・スンボム主演なので観ない訳にはいかない。
ただでさえ、日本公開は少ないのに。
そんな訳で、全く期待せずに観に行った。
えっ、前置き長い(笑)?

功を奏したのか、すっごく面白かった。痛快な上にストレス発散までできる。

心身ともに鍛えるための修行が見ていて楽しい。
【気】を遣って壁を駆け上がっていく…など、『ありえねーっ』コトばかりが繰り広げられるんだけど、
それがホントにすっごく楽しいのだ。

物語もコメディばかりに偏らず、ほのぼのしつつドラマ性もあったりして、
きちんと作ってあるコトに好感がもてる。

スンボムの実兄であるリュ・スンワン監督の才能は今風。
スローモーションを多用したアクションシーンの見せ方はCoolの一言に尽きる。

スンボム。韓国でもブサイクって言われてるけど、そんなコトないよ。
僕の中では、雰囲気男前。どこか不良少年ぽいところが残った愛嬌のある顔はステキだよ。
彼の目には力がある。
今作では、どんどんカッコよく見えてきたもん。
この作品を見て、やっぱり彼のコトを好きだと再確認できた。
若手の中でいちばんの群を抜いていると思う。

こういう作品にも出演して、
手を抜かずきちんと演技する韓国の重鎮アン・ソンギ先生はやっぱり偉大な国民的俳優だ。
日本で言えば、高倉健がカンフー映画に出るようなもんだ。『ありえねーっ』よね!?

スンボムの声を担当した劇団ひとり。
初めは不安だらけだったけど、意外と無難に吹替してた。
見ててほとんど、気にならなかったもん。

独特の韓風(=カンフー)の技。
俳優陣が猛特訓を受けたのが見ていて伝わってくる。
その美しいフォルムは正にアーティスティックだった。

クソーっ、韓風を習いたくなってきたぜっ(笑)。

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動物園前シネフェスタ4/単独

男性サービスデー1200円→1300円

私の頭の中の消しゴム(韓国)

【死より切ない別れがある。】

若年性アルツハイマー病を題材にした2001年に日本で放送された
TVドラマ『Pure Soul 君が僕を忘れても』(永作博美、緒形直人主演)のリメイク作。
日本では約6万人の患者がいると言われている病だ。

丁度、去年の今頃に韓国で公開されていて、ずっと観たかった作品。
ようやくの日本公開。
期待していた以上の出来だった。
感動の余韻が残る中、観終わった後、梅田の紀伊國屋書店で公式ガイドブックを購入する↓
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とても丁寧に描かれていた脚本。
2人の出会いから切ない別れ(=新しい形での再会)までを、117分の中で見事に描ききる。
前半はロマンティックに、後半はセンチメンタルに。
その2人の愛の時間をゆっくりと描いているせいもあって、
深い悲しみが伝わり、かなり感情移入して見てしまう。

韓国独特のお涙頂戴的ではなく、自然に涙が頬を伝う。
決して泣かせようとは作っていない。
どちらかと言うと、従来の韓国映画ぽくはない。
映像や使われていた音楽のせいもあるのだろうか、
『イルマーレ』に似たヨーロッパ調の趣きがあった。

チョン・ウソンとソン・イェジンの正統派美男美女コンビ。
全く嫌みじゃなく、自然体に見える絵になるベスト・カップル。
2人の息の合った渾身の演技に涙がとまらない。

ウソンことウーちゃん。韓国俳優で初めてファンになった人。
今作では本当にカッコよかった。
役柄も含めてワイルドで男前。長身にスーツ姿もよく似合う。
あんな風に愛されて見つめられてお姫様抱っこされたら、それはそれは幸せでしょう(笑)。
イェジン。『永遠の片想い』、『ラブストーリー』と薄幸なイメージが強い。
可憐で清楚。
今作ではその持ち味を十分に活かして、悲劇的なヒロインを見事に自分のものにしていた。
この作品で、彼女に対する見方がかなり変わった。

正直、病が発症してからは嗚咽しそうだった。
あまりにも悲しくて、やり切れなくて。
エンドロールが流れても、涙はとまらない。
こういう経験は久し振りだった。

もし、自分が記憶をなくす立場だったら?
絶対に忘れたくない人がいる。
もし、自分の記憶をなくされる立場だったら?
絶対に忘れてほしくない。
だけど、現実はそうはいかない。
どう受け入れて向き合って生きていくべきなのか…。

最初は化粧が濃かったイェジン演じるスジン。
だけど最後はノーメイクに近かった。
それは彼女の満ち足りていく心の変化を表しているのだと信じたい。

最後にウーちゃん演じるチョルスが言うセリフ。
サランヘ…(愛しているよ。)は、とても重みがあった。
もしかしたら、『愛している』という言葉は、
簡単に口にすべきことではない神聖な言葉なのかもしれない。

どんな境遇に陥ったとしても、そういう時にこそ互いを思いやれる気持ちがある事が、
真実の愛(=愛している)ではないだろうか。
この2人は正にそうだった。

普段、韓国映画を苦手な人にも、ぜひ見てもらいたい作品。
ここには誰もが経験するであろう普遍的な愛があるから。
そして今、愛する人がいる人にこそ見てもらいたい。
日常的な生活の中で、当たり前ではないものに気づいてほしいから。

ふと、自分の部屋の棚を見ると、この作品の韓国版DVDがあった。
買っていたのを忘れていた。
特典ディスクの本編とは違うディレクターズ・カット版をいつか見ようと思った。
僕の中で、今年最高のラブストーリーになりそうだ。

この映画は、幸ちゃんと一緒に観た。
同じところで、2人とも号泣していた。ハンカチは必需品です(笑)。
その感性が似通っているところが、とても嬉しかった。
こういう経験ができる事って、そうそうない確率。
鳥肌が立つくらいの至福の時。
だから、その瞬間を求めて、映画はひとりではなく誰かと一緒に観たいのだ。

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梅田ブルク7/幸ちゃん

前売り券1300円→1650円

スクラップ・ヘブン(日本)

【世界を一瞬で消す方法がわかりました。】

痛々しくて、重い。
刹那的な現代の病める若者を描いていると言ったらいいだろうか。
20代後半の人が見たら共感できるかもしれない。
2、3年前の僕ならば、きっと共感していただろう。
だけど、もうその時期は通り過ぎてしまったので…。

決して悪い作品ではない。むしろ、意味ある作品だと言える。
ただ、今の僕が求める作風ではなかったという事だ。

バスジャック事件で偶然居合わせた2人の男と1人の女。
その事件がきっかけとなり、世の中に対する小さな怒りがどんどんと積み重なり、
社会に復讐しようとしていく。

脚本も兼任した李相日監督は、『ファイト・クラブ』に影響されたと見る。
設定がどことなく似ていたので。

陽の顔が加瀬亮で、陰の顔がオダギリジョー。
2人でひとり、一心同体に見えた。

出だしのコミック調の演出は、はっきり言って笑えない。
かえって神経を逆なでさせるだけだ。

誰だって、日常の中で生きていれば、理不尽に思える事はある。
だからといって、それに対していちいち復讐なんてしてたらキリがないし、社会では生きていけない。
【想像力】は想像の世界だけで思い留めておく事。

そういう僕自身もかつてはオダジョーのテリトリーにいたと思う。
おめでたいことに、あんたには殺したい政治家も、死ぬほど欲しい女もいない
僕にはいた。
自分のものにならないのならば、殺して喰べて一心同体になりたいと思うほど愛した人が。
だけど、その【想像力】を実行すれば、犯罪者だ。

自分自身と相反する人と出会えば惹かれ感化され、アッという間に親しくなる。
凝縮された濃密な時間。魂に似通った心のふれあい。
だけど、そういう出会いに限ってあっさりと悲劇的な別れがやってくる。

加瀬クンはこういった日常の中で平凡に生きる青年役がとても似合う。
好きな『ロックンロールミシン』と役柄が被る。
オダジョー。今年は『パッチギ!』に始まり、『オペレッタ狸御殿』、『イン・ザ・プール』、
『メゾン・ド・ヒミコ』、『SHINOBI』、そしてこの作品と6本の中で彼を見続けてきた。
だけど、TV『情熱大陸』を見てから彼に対する興味度が減少したので、
前ほどのときめきを感じる事はなかった。
かなりのナルシズムを感じたせいだろうか。
今回の役柄はルックスからスタイリングまで、本当になにもかもがカッコいいというのに。
こういうエキセントリックな役を彼は演じたかったのだろう。
見ていてそれがすごく伝わってきたし、意気揚々としていた。
過剰だと言えるほどのクレイジーな演技っぷり。
この役柄が、いちばん素の彼に近いのだろうなと思った。
栗山千明はいてもいなくてもよかったような役柄だった。
2人にあまり絡まないし、出番も思ってた以上に少ない。
予告編から想像すれば、3人を中心とした物語だと思っていただけに残念だった。
期待している女優なだけに、なんだかもったいない起用だな。

この作品を引き締めていたベテラン柄本明の存在感は有り難い。
役柄もいちばん真っ当だった。
復讐なんてのはな、俺たちみんな考えてんだよ
世の中にはな、てめえの復讐ゴッコなんかじゃ満たされねえ怒りが腐るほどあるんだよ!
だから今の僕は、彼の視点でこの作品を見てしまっていた。
かつての自分を見るような『彼らの青い時代の物語』だと。

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動物園前シネフェスタ4/奈良ちゃん

前売り券1500円→1250円

アーメン(フランス=ドイツ=ルーマニア=アメリカ)

亜紀ちゃんからのParis土産のひとつであった、このDVD。
ようやく見るコトができる。もちろん、字幕はないけれど。

なぜ、こんなにこの作品に惹かれるのかというと…。
①生涯のベスト作の一本である『アメリ』のニノ役のマチュー・カソヴィッツ主演だから↓
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しかも『アメリ』出演直後の作品。
②その彼が修道士役だから。
③第二次世界大戦中のナチスによるユダヤ人迫害を題材にしているから。

物語のテーマは本当に重い。
ドイツ(=ナチス)と同盟を結んでいた当時のイタリア(=ヴァチカン)。
外交との関連性があったのだろうけど、ナチスのユダヤ人迫害を見て見ぬ振りをしていた
ヴァチカンの幹部たち(もちろん、ローマ法王も含む)。
戦争中とは思えないブルジョア階級の豪勢な生活。
美しい調度品に服装、建築物。
映像は確かに美しい。

そもそも、宗教の信仰とは何ぞや!?と言いたくなる。
宗教の矛盾を改めて考えさせられる。
非人間的な行動を見過ごすなんて、本当に有り得ない。
自分に害がなかったら、【関係ない】と言った風潮が許せない。
この時代は【郷に入れば郷に従え】で、
人間的な【善】を言う人ほど異端児扱いされこの世から抹殺される。例え、死ななくても。
その不当に腹立だしさを感じるが、もし僕自身がその場にいたら、
やはりわが身一番で【郷に従う】のだろうか…。

Ulrich Tukur演じるナチ親衛隊将校クルト・ゲルシュタインと、
マチュー演じる若きイエズス会修道士リカルド・フォンタナ。
SS隊でありながらも、ホロコーストを目の当たりにし、
自国のしている非人間的な振る舞いに驚愕するゲルシュタイン。
同じ人間として許せないと動き出す彼に賛同し協力するリカルド。
人種や国籍を超えた友情に近いものが、そこにはあった。
ゲルシュタインは同胞にも協力を求めるが、誰ひとりとして関わろうとはしない…。

【その場所】を何度も往復する本来の目的でいう貨物列車。
行きは戸が完全に閉まっていて、帰りはその戸が全開している。
何度もその場面が映し出され、汽笛の音と共に深く印象づけられる。

ガス、火、煙…。
それが意味するものは、【死】。
社会派コスタ=ガヴラス監督は、あえて行為そのものを映像としては見せない。
だからこそ、余計にそこで何が行なわれているのかを痛烈に想像させられ、胸が痛む。

注意!!この先、黄色の文字部分は結末について触れている箇所があります↓
リカルドが最後に取った行動は、僕にはあまりにも衝撃的で言葉を失ってしまう。
それは正に、出口のない道を示唆している。
こんなにも、黄色の星の形をしたワッペンに胸が締めつけられるなんて…。
ユダヤ系フランス人であるマチューには、この役が痛いほど理解できたのだろう。


ラストシーンに映し出される美しいイタリアの風景。
だけど、それは保身で塗り固められてできた虚構の美しさに過ぎないのだ。

字幕がない中、雰囲気だけで見たが、それでも126分は長くは感じなかった。
だけど、やっぱり字幕付きできちんと観たいので、日本公開を諦めたくはない!!

ここからは、ミーハーな見解で。
マチューの修道士の格好はとても似合っていた。着こなすマントがなんともオシャレ。
綺麗に分けられた七三の髪型はナデナデしたくなる(笑)。
フランスの俳優で一番好きな男優だから、それはそれはトロけそうでした。
『アメリ』でも印象的だった彼のうなじ。今回もステキで満足。
とにかく、カッコ可愛い!!
なので、真摯で高潔な役柄がぴったりだった。
多分、あの愛くるしい目で見つめられたら失神するだろうな(笑)。
俳優としての次回作は、
かのスティーヴン・スピルバーグ監督の渾身の一本である実録物『ミュンヘン』。
主演がエリック・バナ、ダニエル・クレイグと今が旬の男優がキャスティングされているので、
チョー楽しみ。日本では、2006年早春公開予定。
ちなみに僕が今、愛用している香水は、
『アメリ』公開直後にマチューがイメージ・キャラクターを務めていた
『LANCOME』の【MIRACLE HOMME】であります。

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DVD

★★★★

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